ロングロングケーキ

大島弓子、ロングロングケーキ読了。

1986年から1988年までの中短編を集めた文庫だが、表現者としてのピークはやや過ぎた感がある。やはり彼女の全盛期は、いちご物語の 1975年から、1977年のバナナブレッドのプディングを経て、綿の国星の連載の終わる1987年ころまでなのだろう。

1980年後半といえばバブル絶頂、浮ついた世相に、もう彼女の感性はついていけなかったのかもしれない。大島弓子作品のひとつの典型は、シャーマン、巫女的な資質を持った主人公(男女どちらの場合もあり)が、突拍子もない言動を繰り返し、自分も周囲も傷つけ、ついに混乱が極に達し、破綻が生じると思われる間際、奇跡のような偶然によって救われ、世界からやさしく受け入れられるというものだ。そして、家族や友人は、このいわば異常者である主人公を、救済の奇跡が起きるまで、辛抱強く支援し、見守り続ける。

が、このロングケーキでは、多くの場合、巫女的な主人公達は皆、世界から迎え入れられることなく、放逐される。「終わらないケーキ」のコタは精神病院に、「山羊の羊の駱駝」の雪子は北国に托鉢に、といったふうに。そして、周囲の家族や友人も、「山羊の羊の駱駝」の駱駝では顕著なように、最初から主人公の言動に対し無理解で冷淡である。

この無理解と冷淡は、当時の世相に対し、大島弓子自身が感じていた違和感そのものなのだろう。、「山羊の羊の駱駝」の少女達がデパートの最上階のレストランでディナーパーティを行う際の、あまりといえばあまりな現実味のない描写から、彼女が当時のバブル経済や少女達の生活をまったく分かっていなかったことが分かる。もはや、甘く、湯気のたゆたうバナナブレッドのプディングで絆を確かめあう時代は終わり、ロマンの果てにあった性愛は日常の通貨にまで堕した。このとき、確かに大島弓子が表現者として先頭をきっていた時代は終わったのである。

そして、代わりに岡崎京子という天才があらわれ、甘くやさしいバナナブレッドのプディングの代わりに、河原で転がる腐敗した浮浪者の死体で、少女達が絆を確かめ合う時代がはじまるのである。

参考文献:戦後民主主義と少女漫画

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プロフィール

黒澤はゆま

Author:黒澤はゆま
歴史小説家。はゆまは古語で「早馬」「報せ」の意味。小説のことや歴史のこと、また日々の徒然のことを、「報せ」ていこうと思います。三国志を舞台にした小説「花武担」連載中。

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