女性が戦場にたつとき

歴史上、女性が戦場にたち、将軍となるケースが多々あります。日本では、忍城を守り抜いた甲斐姫、薩摩隼人の兵団をほぼ皆殺しにした吉岡妙林尼、中国では岳飛と並ぶ名将だった韓世忠の妻梁紅玉、夫の勢力圏を引き継ぎ虐殺魔の張献忠と戦い抜いた秦良玉、フランスではあの有名なジャンヌダルクがいますね。彼女達が戦うことになった理由は様々ですが、結果たいてい勝ってます。

まぁ、もともとむくつけき男共を率いて、自ら戦おうとするような人ですから、才気と活力に満ちた女性であったのは間違いないでしょう。しかし、それにしても、この勝率は異常です。なぜでしょうか? ひょっとして、女性の方が戦争にむいている?

その強さの秘密は、彼女達が、女性であるために、戦場に男の持ち込むルールを一切無視できたからなのだと思います。もっと言うと、彼女達は男が本能的に感じる戦場美というものを、女の本能で完全に馬鹿にしきっている人達でした。

ジャンヌダルクのケースを見てみましょう。彼女、実はヨーロッパ史で初めて大砲を集中運用した将軍でした。

当時のフランスはイギリスの百年戦争のまっただなか。戦争はすっかり慢性化していて、ロートル同士のボクサーのクリンチばかりの試合のように、ぐだぐだな戦闘が続いていました。当時、戦争の主役は騎士でしたから、彼らからすれば、戦争が続くのは、自分の領主としての地位も強くなるし、なにより戦争ごっこが出来て素晴らしいことでした。むしろ戦を引き延ばすために、重厚な鎧や、戦いの前の名乗りや、一騎打ちなど、騎士の名誉に名を借りた戦場のルールがあったのかもしれません。

そんな爺のファックのような気合いの入っていない戦場にたったのが、神の声を聞いてしまい、宗教的使命感に燃える電波少女、ジャンヌ。彼女は高らかに自分の家名を告げ古風な一騎打ちを続ける騎士達を無視し、大砲に目をつけます。

「この大砲いうのすごいやんけ。これをあの敵が一杯集まってるところにガーン打ち込んだらええんちゃうんか」

男達はびっくりします。

「ええっ、そんなむごいことできませんよ」
「なに言うとんねん。これは戦争やぞ。敵がぎょーさん死んだら、それでええねん。ガツーンいってまえ」

ガツーンいった結果、人がぎょーさん死に、オルレアンは解放され、パテーの戦いも勝利をおさめました。花試合のようだった戦いの雰囲気は一変し、相手を殺すか、こちらが死ぬかの悽愴な雰囲気が戦場にただよいはじめます。

「男共、これが戦争だ」

ジャンヌはそんな気持ちだったのかもしれません。これらの戦争の結果、ジャンヌの片腕として、戦場をかけた名将ジル・ドレが心に傷を負い、戦後少年を誘拐しては、陵辱と虐殺を繰り返すという変態になってしまいました。彼の行状は、グリム童話の「青鬚」とう物語も産みます。神の子ジャンヌの戦いの副産物というべきでしょうか。

彼女の戦い振りは、男達に畏怖の念を覚えさせたようです。王太子シャルルが、フランス王位につき、シャルル7世になると、戦争に必要なのは軍才より政才になってきます。というか、戦争そのものが、政治の延長に他ならないのですが、男達に戦場の一側面をつきつけたジャンヌも、そこまでは見抜くことができなかったのでした。

多くの女性将軍達が輝かしい才能を戦場で示しながら、結局のところ、ワンポイントリリーフのような形でしか、歴史に関われていないのは、戦争と政治を結びつけるセンスの欠如のせいだったのかもしれません。戦場美というものに対しては、徹底的に批判的だった彼女達も、こと戦うことの意義に対してなら、男以上に盲目な崇拝者でした。

ジャンヌがイングランドによって火刑に処されるのは、1431年。彼女が救ったはずのフランスから救いの手は一切無く、煙によって窒息死した彼女は、ただの女性であることを示すため、スカートの前をはだけ性器をさらされ、それからもう一度火あぶりにされました。神の声を聞いてから六年後のことです。彼女は、まだ十九才でした。

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プロフィール

黒澤はゆま

Author:黒澤はゆま
歴史小説家。はゆまは古語で「早馬」「報せ」の意味。小説のことや歴史のこと、また日々の徒然のことを、「報せ」ていこうと思います。三国志を舞台にした小説「花武担」連載中。

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