桜宮高校体罰事件に言寄せて

昔、スクールウォーズというドラマがありました。wikiを引用させてもらうと、京都市立伏見工業高等学校ラグビー部と同部監督で元日本代表フランカーの山口良治をモデルとして、作家・馬場信浩が執筆したノンフイクション『落ちこぼれ軍団の奇跡』を基に制作されたフィクションドラマです。

母がこのドラマがとにかく好きで、再放送がある度に、一緒に見ていました。また、中学生のとき、このモデルになった先生が学校に講演に来てくれたことがあったのですが、これもまた絶対に会いたいと目を輝かせる母と共に見に行ったものです。

さて、このドラマのシーンに、109-0という大差で負けたラグビー部員全員を、主人公の泣き虫先生が殴りつけるというものがあります。「おれはこれからお前たちを殴る!!」という名言と、泣き虫先生の涙に濡れた拳骨が、視聴者の心に深く刻みつけられる名場面でした。はゆまの母は、血の出る映画やドラマは絶対駄目な平和主義の人ですが、そんな母もまたこのシーンが大好きだったりします。

もともと人間の社会は体罰を前史時代からずっと許容し続けてきました。現在でも、法に基づく刑罰という名目で、処刑も含めた体罰は行われています。原始的な部族社会はシンプルな社会なので、法はありませんが、その代わり刑罰の対象になる男の基準があります。それは「やるべきことが分かっているのにやらないやつ」というものです。

子供のときに「やるべきことが分かっているのにやらないやつ」に当てはまる振る舞いをすると、体罰によって矯正しようとし、大人になってから「やるべきことを分かっているのにやらないやつ」だということが判明すると、部族の男達がそのものをさらい、森のなかにある戦士達の家に連れて行って殺すのだそうです。

日本語は便利なもので、東西南北どの部族社会でも刑罰の基準となり、そして最大の侮蔑語になる「やるべきことが分かっているのにやらないやつ」を一言で表す言葉があります。それは「卑怯者」というものです。

スクールウォーズで泣き虫先生が殴りつけたラグビー部員達も皆「卑怯者」でありました。泣き虫先生から、指導を受け、本気になって戦うことの大切さを教わっていながら、強豪校の迫力に圧倒され、もとの落ちこぼれ精神に戻り、へこたれ、勇気を見せませんでした。試合後の彼らのふてくされた顔からは、自分の怯懦に居直った、醜い心の有り様があらわれていました。だから、泣き虫先生は激怒したのです。

力不足に怒ったのではなく、彼らが「やるべきことが分かっているのにやらないやつ」だったから、怒り殴りつけたのです。プリミティブな社会だったら、彼らは大人になってから、戦士達のコミュニティに入られず、最も不名誉な形で殺されてしまいます。だから、ぶっ飛ばし必死で矯正しようとしたのです。

人間の記憶には、皆忘れていても、部族社会のような生活をしていたときの記憶が、深いところに眠っています。だから、母のような暴力反対の人でも、スクールウォーズの先生が体罰をふるうシーンを見て、共感してしまうということがあり得るのでしょう。

さて、巷間話題になっている桜宮高校での体罰事件について。はゆまも、ネットで調べて分かる情報くらいしかつかめていないので、そこから判断するほかないのですが、まず問題となっている先生は、さほど悪い人のようには思えません。サディスティックな欲求に基づいて手前勝手に生徒を罰するような人ではないと感じるのです。

多分飲み仲間とかになれば、彼の仕事への思い入れの強さをややもてあましつつも、楽しく過ごせるのではないでしょうか。勝手な想像ですが。

今回学校OBや、生徒からも教師をかばう言葉が出てきています。多分、本当にこの先生が振るった体罰によって、矯正出来た子もいたのでしょう。

ただ、それでも彼の体罰は、先に書いたように、体罰にシンパシーを感じるはゆまから見てもアウトだったと思います。だって、自殺した生徒さんはどう考えても「やるべきことが分かっているのにやらないやつ」ではなかったから。

報道からは、主将としての責任感が強く、怯懦に居直るような子では決してなかったことがうかがえます。彼はやるべきことを何とかしてやろうとしている子でした。もちろん、それは人間であり、まだ子供なわけですから、いくらか至らぬ部分もあったのでしょう。でも、だったらすべきは、映らない一昔前のテレビのようにバンバン叩くのではなく、助言と励ましの言葉を送るのが、指導者としての勤めだったはずです。

そこが、自殺した生徒さんは勿論、体罰を振るった先生のためにも、残念でなりません。

今回のことで、体罰が全面NGになるかどうなるかは、もう政治もからんできて、皆目検討もつきませんが、はゆま的には「やるべきことが分かっているのにやらないやつ」かどうか、これが体罰の善し悪しを判断する一つの基準になるのではないかなと思います。そして、スクールウォーズの生徒達が殴られても、むしろ感謝し、そこから奮起することが出来たのも、この基準を守っていたからだと思うのです。

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プロフィール

黒澤はゆま

Author:黒澤はゆま
歴史小説家。はゆまは古語で「早馬」「報せ」の意味。小説のことや歴史のこと、また日々の徒然のことを、「報せ」ていこうと思います。三国志を舞台にした小説「花武担」連載中。

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