「東京暮色」

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小津作品のなかでは、異色のとにかく暗い作品。彼の映画の特徴の一つである、日本の美しい原風景も影をひそめ、代わりに退廃的な工場やどぶ川の光景が描かれている。麻雀やBAR、パチンコなど、他の作品では、向日的にとらえられている戦後の新風俗も、本作ではどこか暗く、影がある。

1957年の作品だが、小津が最後に取ったモノクロ映画で、前後の作品に、1956年の「早春」、1958年の「彼岸花」がある。

どうも小津は、この作品で、「早春」に見るような戦後の新しい青年達の風俗と、「彼岸花」で描いたような父娘ものの融合をやりたかったようだ。だが、不倫をテーマにしていながら、夫婦関係も、そして青年同士の友情も破綻せず、むしろ強いつながりを印象づける「早春」や、勝手に縁談を進めた娘に対する父の憤懣を描きつつ、最後には和解を予感させるラストで締める「彼岸花」とも違い、本作では人間の絆がもろく、そして人を救わない。

若者達が、ボロアパートに集まるのは「早春」と一緒だが、彼らは花札や麻雀にうつつを抜かし、仲間内の恋愛で次女が妊娠していることを知っても、積極的に関わろうとはせず、むしろ面白がっている。夫婦関係は、母から逃げられた父、出戻りしてきた長女に見られるように、危機にあるか、既に崩壊済みである。小津の作品では、常に強固なものとして描かれる、父と娘のつながりも弱く、妊娠した次女は、最後まで父の子であることを疑い、そして、そのために非業の死を遂げる。

小津自身が失敗作と振り返ったように、本作では、会話の妙などの、いつもの小津の冴えが見られない。小津の目指した戦後の新しい青年達の風俗と、父娘ものの融合というテーマは失敗に終わったようだ。少なくとも、小津作品に一般に求められることを、求めた人が本作を見たら失望するだろう。だが、それでも、この作品には、一見の価値がある。気づくと、小津ワールドに取り込まれているという、小津作品の最低のラインはクリアしているからだ。

また、本作の失敗のため、小津は戦後の新しい青年達を描くのはきっぱりとやめ、得意の父娘ものなどの人情ものに注力していくのだが、もし本作で試みたことが成功し、「早春」の路線を進んでいったら、どんな小津世界が展開されていったたのだろうか、そう想像しながら見るのも一興のように思うのだ。

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プロフィール

黒澤はゆま

Author:黒澤はゆま
歴史小説家。はゆまは古語で「早馬」「報せ」の意味。小説のことや歴史のこと、また日々の徒然のことを、「報せ」ていこうと思います。三国志を舞台にした小説「花武担」連載中。

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