英雄の本音

英雄には、衆を引きずっていくという積極的な側面ともう一つ、衆に押し出されるという受け身の面もまたあるように思う。

例えば、武田信玄といえば、強権を持って、他国を侵略した独裁者というイメージが強いが、当時の甲斐は、農業の技術革新に成功し、人口が急激に増加していた。信玄の軍事行動の多くは、膨れあがった人口に、突き動かされての面が実は強い。信玄は、放っておいたら、何をしでかすか分からない、若い次男坊以下の面を引き連れて、必死で口減らしと彼等のエネルギー発散のために、他国を荒らし回ったのだ。

隆慶一郎も指摘していたが、「我れ諸士に、賞禄を心の儘に行ひ、妻子をも安穏に扶持させんと思ひ、四方に発向して軍慮を廻らし」という長宗我部元親の言葉は、多くの戦国大名にとって、本音であると共に悲鳴であったと思う。彼等は敵以上に、狼のように迫る味方の吐息を背中に感じていたのだ。

甲府盆地に水が満ちるように民衆があふれ、その人の群れの洪水の真っ先に押し出されていく人物。冷や汗と脂汗にまみれつつ、洪水から逃れるように駆けていくその人こそが信玄だったように思うのである。

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三国志連載小説
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黒澤はゆま

Author:黒澤はゆま
歴史小説家。はゆまは古語で「早馬」「報せ」の意味。小説のことや歴史のこと、また日々の徒然のことを、「報せ」ていこうと思います。三国志を舞台にした小説「花武担」連載中。

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