殿様!

時代劇で有名な「殿様!」という言葉。

実はこれ元々は、お百姓さんが庄屋を呼んだり、商家の丁稚が主人を呼んだりするとき、使われる程度の言葉でした。相対的に偉い立場にある人の呼称で、一時的に、その人の指示に従わなくてはならなくなった場合、例えば浪人が、属する組頭を呼ぶときにも使われたそうです。今で言うと「プロジェクトリーダー」などの語感に案外近いのかもしれません。

対して、武田家舞台の小説や映画でよく聞く「お屋形様」は、山賊とかの「親方」を連想させて、イメージが悪いですが、実はこっちの方が、室町幕府が本当に権威のある家、例えば佐竹家や上杉家くらいにしか許さない、封建的・絶対的な重みを持った、格調高い言葉だったりします。

殿様という言葉が流行しだすのは、どうも織豊政権下、特に豊臣政権下のことだったような気がします。織田、豊臣両政権下のもとで生まれた新興の大名家は、室町的な権威なんか知ったことではないですし、主家の成り上がりの雰囲気も反映し、彼等の身分が低かった頃呼ばれた「殿様」をそのまま使いました。また、そもそも、次代の勝者となる徳川家自体、「殿様」の三河方言「とのさん」で呼ばれる程度の家でした。

こういった状況を、織豊政権下でも生き延びることに成功した、上杉家や佐竹家といった古い家柄の大名が見た時、どう思ったでしょう。「貫目のないこと」そう感じたかもしれませんし、一方で、手垢のついていない言葉で呼ばれて、それで自得している同輩達に、新しい時代の風を感じたかもしれません。

しかし、江戸時代になると、「殿様」という呼称は幕府によって、家臣が主君を呼ぶときの言葉として、正式に採用されます。今でいえば、リーダー程度の、相対的・一時的な立場の上下を示す言葉が、絶対的な権威を持つ言葉に変わったのです。この時、戦国以来の下克上の夢は消え、硬直的な江戸的身分制度が、日本を覆うようになりました。「殿様」という言葉と共に、戦国時代は終わったのでした。

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黒澤はゆま

Author:黒澤はゆま
歴史小説家。はゆまは古語で「早馬」「報せ」の意味。小説のことや歴史のこと、また日々の徒然のことを、「報せ」ていこうと思います。三国志を舞台にした小説「花武担」連載中。

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