宝塚歌劇場「春雷」

先週の土曜日、生まれて初めて宝塚歌劇場に行って来た。

自分もジェンダーパニックものの歴史小説でデビューさせてもらったが、宝塚は、女性だけで男女の恋愛を演じるという、いわば性倒錯の世界を、百年近くもの間、洗練させ続けてきた場所だ。前から興味があったのだが、今回、生徒の知り合いの方がチケットを手配してくれ、見に行くことが出来た。

阪急宝塚駅を降りて、歩いて数分、見えてきた建物は、赤い屋根に、白亜の壁。頭のなかにある、西洋のお城のテンプレを忠実に再現したような建物だ。日本女性にとっての夢の世界は、こういった場所で展開しなくてはならないのだろう。

演目は「春雷」。ゲーテの若きウェルテルの悩みが原作だそうで、小劇場で公演される。演じるのは雪組。花組、月組に続く三番目の組らしかった。

劇場に入ってまず驚いたのが、一人で来る女性の多さ。一般論として、女性は友達や彼氏と連れ立って遊ぶのが好きだ。それが、若い人からお年寄りまで、一人きりで、絨毯の敷き詰められた待合ホールをノンビリ散策したり、喫茶店でコーヒーを飲んでいる方が一杯。街で見る一人歩きの女性が、少し神経質になっているのと違い、皆、伸び伸びと自由な感じだった。多分、ナンパするようなお馬鹿な男は一人もいないのだろう。

小劇場ホールに向かうと、階段の登り口でひいきの生徒さんの名前を張り出した、私設ファンクラブの方が呼び込みをしているのに出くわした。階段を昇っていくと、登り口だけでなく、踊り場でも会員募集をしている人がたくさん。何故か大島弓子とか、1970年の少女漫画を思い出す。あの年代の少女漫画は、学校内の私設ファンクラブネタが一杯出てくるのだ。

入ってみると、小劇場ホールは滅茶苦茶大きかった。開演二十分まえにも関わらず、もうお客さんはギッシリ詰まっている。座ってる人がほとんど女性なのに、どこか体育会系的な行儀のよさと圧迫を感じる。ざわめきのなかに、緊張があった。連れ合いに聞くと、別に規約はないが、劇中に飲み物を飲む人なんてほとんどいないということだった。劇が始まる前の注意事項のアナウンスで、マナーを守らない方は最悪の場合退場もあり得ると言われたので、慌てて携帯の電源をオフにする。

やがて、幕が上がり劇が始まった。

正直、最初は「うーん」ていう感じ。よくテレビで見る、宝塚の物真似そのままなのだ。大袈裟な身振り、大袈裟な台詞。なかなか感情移入できない。

だが、はじまって三十分くらいしてだろうか。だんだんと、居心地の悪さがなくなり、劇の世界にのめり込んでいけるようになってきた。暖気運転ではないが、初心者の人は、宝塚の世界観になれるまでに、ある程度の時間が必要なようだ。

そして、独特の節回しさえ受け入れることが出来れば、宝塚の劇は、本当にきらびやかな夢の世界だ。髭を生やした執事でさえ、演じるのは美しい女性である。そこでは、女性にとって違和あるものは、全て注意深く取り除かれている。争いがあっても、全て、女性のために争われ、犯罪があっても、全て女性のために行われる。恋を争う二人の男はあくまで凛としてかっこよく、それでいながら男の持つ外貌的な圭角はない。

そして、ヒロインは、美しい男の狭間で、あくまで楚々として愛らしく、嘆きながらも、恋の戦利品としての自分を喜んで受け入れているように見える。女性が演じる男性の腕のなかだったら、ここまで、女性はやすやすと女性でいることが出来るのだろうか。それが、何だか不思議に思えた。

ウェルテル役の彩凪翔さんもかっこよかったが、恋敵のアルベルトを演じた鳳翔大さんがよかった。背が高く凛々しい。ウェルテルのように真っ直ぐに恋心を表現出来ない、不器用な法曹家の苦悩をうまく演じられていたと思う。ヒロインのロッテを演じた大湖セシルさんも、元男役らしいが、素晴らしく可憐だった。

最後、終わりの歌的な感じで、劇団員全員のダンスがあった後、幕が締まる。周りを見ると、観客の女性は皆満ち足りた顔をしていた。しっかりと女性が誰かに守られていると感じるときにする表情だ。彼女達は、この劇場のなかでは幾重にも庇護されているのだろう。何かから?というのは、まだはゆまには分からない。いずれにせよ、やはり、ここは徹底的な女性の世界なのだなと思った。


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プロフィール

黒澤はゆま

Author:黒澤はゆま
歴史小説家。はゆまは古語で「早馬」「報せ」の意味。小説のことや歴史のこと、また日々の徒然のことを、「報せ」ていこうと思います。三国志を舞台にした小説「花武担」連載中。

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