湯村温泉

有給を一日もらい、金、土で湯村温泉に行って来た。

車の運転は苦手なので、阪急三番街から高速バスで。三時間ほどごとごと揺られると、景色が段々鄙びてくる。やわらかい曲線の棚田、田舎特有の大きな蔵付きの家、いつまでも飾ったままのばかでかい鯉のぼり、とんでもないセンスのドライブイン。審美的には決して美しいものばかりじゃないけど、宮崎の田舎で育った自分には懐かしく親しみ深い。

道の両側に迫る山々の、緑の照り映えは、五月晴れのせいで目にきついくらいだったけど、所々でしだれている藤の紫色がやわらかく、なごませてくれた。

泊まる旅館は、湯村温泉バスセンターそばの井づつやさん。天皇陛下もお泊まりになったという老舗だ。豪華~というほどじゃないけど、雰囲気のある落ち着いた感じの宿で、部屋も広くて綺麗。

荷物を置いたあと、早速温泉街に繰り出すと、昭和の時間を閉じ込めたタイムカプセルのような町並みだった。町の中央を流れる川のそばに、荒油と呼ばれる98度の源泉が沸いていて、地元の人がそこで卵や蟹や野菜を煮たりするということだった。

その源泉と川の水を引き込んだ足湯用の川に沿った小さな疎水もあり、まだ日の照っているうちに浴衣に着替えた観光客や、地元の人達が足をつけて談笑していた。はゆまも連れと一緒に足をつけると、結構あつい。川の水につけて時々足の熱を冷ましたりしながら、のんびり町の様子をながめる。湯煙のなか元気に駆け回る地元温泉小学校(本当にこういう名前)の子供たち、橋の下で日差しをよけながらタケノコの皮をむくおばちゃん達、川を気持ちよさそうに泳ぐ丸々と肥えた錦鯉と丹頂鶴。

そのうち日も陰って来た。風呂上がりのビール一杯サービスが18時までだったことを思い出し、慌てて旅館に戻る。まずは、最上階の展望風呂へ。驚いたことに洗い場が畳敷きだった。軽く汗を流したあと、お湯につかると、抵抗なく柔らかい肌触りだった。でも、顔を洗うために、手ですくうと、とろっとした感触がある。体の老廃物を取り除き、お肌にいいということだったが、なるほど効きそうである。

開け広げられた大きな窓から、夕陽を背に巣に戻っていく鳥の音、稜線が西日に黄金色に縁取られた山波が見える。風呂桶の縁に座って時々風に当たったりしつつ、ぼんやり過ごすのが幸せでとても贅沢な感じだった。

お風呂から上がったあとは、サービスの生ビールを一杯きこしめす。ゆだった体に、キューとアルコールが染み渡り、細胞がぴちぴちはじけていく。やっぱり温泉旅行最大の楽しみはこれだ。

その後は、メインイベントの夕食。部屋に持ってきてくれることになっていて、献立は、「丹波牛のステーキ」「もさ海老と鯛の鍋」「地取り野菜の天ぷら」「お造り五種盛り」などなど。とにかくボリュームが多く、そしてうまい。ビールも、水のようにするすると体に入っていく。

仲居さんが御膳を下げると、お腹一杯なうえ、酔いと旅の疲れで眠ってしまいそうだったが、最後の力を振り絞って、地下二階の健康風呂へ。ここは、大浴場だけでなく、湯村温泉の伝統という立ってはいる水深の深い露天風呂や、打たせ湯、泡風呂、岩盤浴など、種類が豊富。全部楽しんだあと、部屋に帰って就寝。枕に頭を置いた瞬間、真っ逆さまに落ちていったといっていいくらい、ストンと意識を失い、気づくと翌朝だった。

朝飯も豪華で、昨日の御馳走に重たい胃にはきついかな~と思ったが、一度箸をつけると結構あっさりお腹のなかに入った。井づつやさんを、チェックアウトしたあとは、もう一度温泉街をぶらぶら。大阪に戻る高速バスは13時55分発だったので、結構時間があったのだ。なんかバブリーな感じのするリフレッシュパーク湯村にも入ってみる。温泉の共同浴場というよりは、スーパー銭湯みたいな感じであんまり風情がなかったけど、二階の休憩場は広々としているうえ、ほとんど貸し切り状態で気持ちがよかった。ちょっと仮眠を取ったあとは、旅行の締めくくりに、リフレッシュパークとなりの但馬ステーキレストラン楓へ。二日続けてのステーキだが、かまうものか。

さすがに鉄板で目の前で焼かれるサーロインはひと味違う。柔らかく、別にかまなくても、舌に乗せただけでジワっと肉汁が口の中で広がる。ソースで食べるのもいいが、テーブルにあった岩塩でシンプルに味付けしてみたのも素晴らしい。昼間から飲むビールもさらに素晴らしい。

支払いを済ませると、バス出発までにちょうどいい時間になっていた。再び井づつやさんで、湯の花などお土産を買ったあと、乗車。連れにあきれられつつも、買い込んだビールの蓋を開ける。一口目をあおったときにバスが出発した。後ろに去ってゆく湯村の温泉街を眺めつつ思った。「また、来ようっと」

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プロフィール

黒澤はゆま

Author:黒澤はゆま
歴史小説家。はゆまは古語で「早馬」「報せ」の意味。小説のことや歴史のこと、また日々の徒然のことを、「報せ」ていこうと思います。三国志を舞台にした小説「花武担」連載中。

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