ヘロドトス「歴史」

ヘロドトス「世界史」読了。

といっても、こんな大著とてもとても一読でマスターできるもんじゃない。登場人物の数は膨大で、しかもアルカイオスとかカンダウレスのような聞き慣れないカタカタ読み。似たような名前、もしくはまったく同じ名前も多い。名乗りの際、必ず父称をつけるのも、日本人にはなじみが薄い。

それに語り自体、脱線が多く、その脱線もあまりに大きな迂回路――ナイル川の全景と、その成り立ちをなぞるような――を通るので、本線に戻ったときは、あれはなしはどこに向かってたんだっけ?となる場合が多いのだ。

あくまで読了で読破じゃないから、また、間をおいて、もう一度読もうと思うが、ヘロドトスという人物には好感が持てた。今でこそ「僕歴史好きなん です」といえば、「へ~」と通じるものがあるが、この人の場合、自分の趣味嗜好を他の人に知ってもらうのには、随分骨がいったことと思う。だって、この人が歴史の父なんだから、それまで歴史なんて言葉はなかったのだ。過去の事件と事件とをつなぎ合わせ、ひとつらなりの雄大な物語にするという作業を、誰にも理解されないまま、この人はひっそりと孤独に続けなくてはならなかった。

文献をあさり、聞き取り調査をし、当時というか、今でも尋常じゃない距離を、異民族や山賊の襲撃、疫病、飢餓に襲われながら旅した。

それだけの情熱の持ち主の割りに、語りにはファナティックなところが少しもなく、フェアでやさしい感じがする。それは、彼にとって異民族であるペルシャ人に対する説明のときに顕著だ。伝奇的な話を取り上げすぎという批判もあるが、そのおかげで、語りに色合いや艶が出て、次を読みたいとい う気にさせてくれる。いくら荒唐無稽なことでも、それはそれで、正攻法では通じにくいことを通じさせようとして作られる場合が多いので、ちゃんと記録してくれるのは有難いのだ。とくに、はゆまのような創作者にとっては。

公正でやさしい語り口、伝奇的な話ものせる懐の広さなど、さすがに歴史の父といわれるだけあって、色々な点で見習いたい人だ。それと、多分、この人は地理オタクだと思う、地政学的な描写になると、本筋を忘れて饒舌になるところがある。やっぱり歴史を語りたいという情熱をささえるもののひとつに、衒学的なてらいというのが最初からあるんだなぁ。

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プロフィール

黒澤はゆま

Author:黒澤はゆま
歴史小説家。はゆまは古語で「早馬」「報せ」の意味。小説のことや歴史のこと、また日々の徒然のことを、「報せ」ていこうと思います。三国志を舞台にした小説「花武担」連載中。

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