国立文楽劇場

前回の記事で書いた、27日に起きたある事件とは、リズールで偶然いしいしんじさんと出会ったことだった。

上下真っ白なスーツで、雰囲気のある人がいるなぁと思ってたら、「こちらいしいしんじさん」とお師様が紹介してくれた。

「えっ、あのいしいさん!?」と驚愕。隣で緊張しながら酒を飲んでいたら、お師様と文楽の話題で盛り上がっている。「文楽かぁ、難しそうだな」と、隣でふんふん聞いていたら、「折角だから見に行ってみない?」と急に水を向けられた。演劇はシアトルでオペラ座の怪人を見に行った際に爆睡してしまい、シャングリラが落ちたところしか覚えていないという苦い思い出がある。一瞬どうしようと悩んだが、「チケットは手配するんで、ただだよ」と言われたので、「是非行かせて下さい」と答えた。

で、翌々日の29日大阪に遊びに来た家族を見送った後、絶対に見るべきと薦められた「心中天網島」を見に行った。

千日前の立派な建物のなかは、大阪にもこんな人達がいるのかという、りゅうとした紳士淑女ばかりだった。和服の人も多い。

はゆまとは違う人種っぽい。

大いびきをかいて、白人のおばちゃんから指差して笑われたトラウマが甦る。

しかも上演時間は通常の映画の倍の四時間。ゴッドファーザーより一時間も長い。ドン・コルレオーネがもう一回撃たれてもいいくらいの時間がある。

「とにかく眠らない」という低い志のもと、幕ががあがるのを、ドキドキしながら待つ。

やがて照明が落ち、緞帳があがり、太夫と三味線がからくりで舞台の袖にくるりと表れる。

ベンと三味線の音。

そして、太夫の野太くよく通る美しい声。

「娼(よね)が情けの底深き、これかや恋の大海を、かへも干されぬ蜆川、おもひおもひのおもひ歌」

心配は杞憂だった。

もうこの瞬間に、はゆまの心は、文楽の世界にわしづかみにされていた。

具体的な物語の内容や感想はまた別のところで書かせてもらうことになるが、「文楽」はガラスケースの中で保存されたいわゆる「伝統」ではなかった。「生きた」「娯楽」だった。あんな充実した四時間はなかったと思う。まだ大阪在住で行ってない人がいれば、このGW中にも見に行くべきだと思う。本当に人生損してる。

ただもし注文をつけるとしたら、江戸時代の観客がそうだったように、畳の桟敷で見たかったな。日本人の身体構造的に長時間椅子に座り続けるのはきついし、もともとは、お弁当やお酒(ささ)をすごしつつ、商家の主人が手代相手に「いいか、この筋の意味はだな」とか一席打ったりするのが、本式の楽しみ方だったと思うからである。

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三国志連載小説
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プロフィール

黒澤はゆま

Author:黒澤はゆま
歴史小説家。はゆまは古語で「早馬」「報せ」の意味。小説のことや歴史のこと、また日々の徒然のことを、「報せ」ていこうと思います。三国志を舞台にした小説「花武担」連載中。

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