酒と女と昭和のススム

土曜日は結局、翌朝の五時まで飲んでしまった……付きあわせちゃった方々ごめんなさい。

こういうフィジカル頼みの飲み方もそろそろ改めないといけないな。

晩酌の習慣はなくて、飲まない日が一ヶ月続いても平気だけど、飲むときは翌朝日が昇るまで飲まないと気がすまない。この性格は、多分、特攻隊あがりで、村一番の酒飲みだった祖父ススムの血だと思う。

ススムはとにかく飲んだ。そして遊んだ。最愛の妻、つまりはゆまのお婆ちゃんははやくになくし、義理を通してずっと独り身だった。その代わり女遊びはしまくった。

いろんな意味で血の濃い人で、母なし子になった息子(はゆまの父)をあわれみ、友人たちのお母さんが集まる学校の参観日のことは特に気に病んでい た。

それでススムは「ヨシにさびしい思いはさせられん」と、参観日のたびに、その時つきあってる女の人を送り込んだ。それがあんまり変わるもんだから、父の友達は「ヨシんとこのお母さんは何人いるとけ?」と不思議がったらしい。戦中派の昭和の男の愛情は、ジャイアンの友情と同じくらい、 やっかいである。

それでも、男手ひとつで二人の子供を育て上げ、人間界から自然界へ突き立てられた、弓矢の鏃のそのまた先端といってもいいような、山奥の家を守りぬいたのは立派だと思う。ススムは森を開き、山の清水を家まで引き込み、稲を植え、茶畑を作り、里に降りてくる猿や鹿や猪は遠慮なくぶちのめした。盆に帰ってくる孫達がマムシに教われないように、泳ぎに行く川の川原の潅木と藪を二百メートルにわたって一人で引き抜き焼き払った。子供達は 水着の着替えやトイレする場所がなくなって困った。

深すぎる愛情が空回りして、周りには単なる迷惑で終わることも多かったが、はゆまにとってはよいおじいちゃんだった。修学旅行で知覧特攻平和会館に行ったとき、買ってきた黒砂糖のお土産を美味しい美味しいといって食べていた
姿を思い出す。「特攻隊基地」「孫」「お土産」というのは、スス ムにとって、ピンポイントでつぼにくるキーワードだったのだと思う。その後、わざわざ一人で鹿児島にその黒砂糖を買いに行ったが、食卓で何度も首をひねっていた。「はゆまと同じものを買ってきたはずなのに、これはちっとも美味しくない。どういうことじゃろ?」

酒と女と故郷、そして何より家族を愛しぬいたススムは、深酒のあとトイレで倒れ、そのままなくなるという上杉謙信のような死に方をした。はゆまが まだ中学生のときだった。

今だったら、黒砂糖なんて何ぼでも買ってあげられるし、何よりお酒もいつまでだってご一緒できるのになぁ。結局、詳細が分からぬままだった、ススムと特攻隊とのかかわりももっと突っ込んで聞いてみたかった。

ススムじいちゃん、あなたの孫は、あなたの意志をついで立派な飲んだ暮れになりました。お彼岸は無理だったけど、お盆は帰れると思うので、また一緒に飲みましょう。それまではゆっくり天国のお酒を楽しんでください。

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プロフィール

黒澤はゆま

Author:黒澤はゆま
歴史小説家。はゆまは古語で「早馬」「報せ」の意味。小説のことや歴史のこと、また日々の徒然のことを、「報せ」ていこうと思います。三国志を舞台にした小説「花武担」連載中。

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