ついに発売!!「九度山秘録: 信玄、昌幸、そして稚児」

新刊「九度山秘録: 信玄、昌幸、そして稚児」ついに発売になりました。

見本本も届き、その美しさにひたすらため息。
駄文を包むにはあまりにも豪奢な衣装を、槇えびしさんが縫いつづってくださいました。

本日から、書店にも本格的に並び出すようです。

どうぞ、お手に取って、昌幸の知られざる少年時代を、そしてあの名将との絆の秘密をお読みくださいませ!!

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第二作発売!!!

お待たせしました!

デビュー作「劉邦の宦官」から二年半。
第二作がついに今月二十二日発売となります。

タイトルは「九度山秘録」



その名の通り、戦国時代、紀州九度山が舞台です。

察しのよい方は気づいているでしょうが、来年2016年の大河ドラマ「真田丸」と同じく、
戦国最強の家、真田家がメイン!

テーマは前回「劉邦の宦官」が宦官だったのに対し、今回は小姓。

映画やドラマでは、白面の顔をすまして、大名の後ろに控えるだけのマスコットのような彼ら。

しかし、君主の愛人かつ士官候補生という不可思議な存在であった彼らから、
「前田利家」「宇喜多直家」「高坂昌信」「小早川隆景」「毛利勝永」「松永久秀」
などなど、錚々たる英雄が輩出しています。

現代の視点から見れば、奇妙としか言いようのない不可思議な関係から、なぜ「もののふ」が生まれるのか?
そのなぜを解き明かしたいと思って書いた作品です。

表紙まだお見せ出来ないのが残念ですが、力のある有名作家さんの力作になっており、そちらもお楽しみに。

発売までもう二週間と少々。
是非、ご一読を!!!

ブーチン

愛猫ブーチンが今日虹の橋を渡りました。

1月に体調崩したときは生還してくれたけど、今回は頑なに食事をとらず、輸液にも頑として抵抗する姿勢に何というか凛とした決意のようなものを感じました。「ごめんね。あなたの事は大好きだけど、僕はもう行かなきゃいけないの」といった。

思えば長居公園で自分から迎えのタクシーに乗り込むような勢いでキャリーボックスに入ってきたときから、そうした果断さを感じさせる猫でした。小説も二作目が決まり、迂闊な下僕が何とか人がましくやっていけそうになったことを見届けたすえに、彼は行くべき場所に旅だってしまったのかもしれません。「これで安心。じゃぁ僕は行くね。虹を越えた向こうで待っているから」

聡明で優しくて、誰かが泣いたりすると、膝に頭を摺り寄せ、必死で慰めようとする猫でした。長居公園で、三人兄弟と一緒に捨てられ、人生(猫生?)の初っ端から人間の都合に振り回されていながら、人に対して信じられないくらい寛容な猫でした。

ちょっと鼻づまりのハスキーな鳴き声、品が良い柄とは決して言えないけど秀麗な顔立ち、弾む毬のような自由さ、伸びやかな美しい姿態。

こうしてPCに向かっていても、今にも書斎の戸を体当たりであけ、足に優しく爪をたて、膝に飛び乗って来るのでは。そう思えてなりません。

今晩は一晩一緒に過ごし、明日荼毘にふします。
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花武担 第五章 友というもの(六)

 姜維と羅憲が、風のように走り去った後、急に簡雍の屋敷はガランとなった。それまで、二人の少年が発していた何か充実したものが、彼等と共に去っていったようだった。

「で、君は誰じゃ?」

 簡雍は、泣きじゃくる張嶷の側にいるタイ族の少年に声を掛けた。

少年は首をひねる。

燕の訛りの強い簡雍の言葉が分からなかったのだ。

 代わりに、蘭が答えた。

「阿嶷達が、乱暴されていたときに助けてくれたの。この子も、殴られたのよ」

 簡雍は、タイ族の少年に、頭を下げた。

「そうか。わしの舎弟が迷惑をかけたの。この通り礼を言うぞ」

 タイ族の少年は、老人から頭を下げられたので、ちょっと戸惑ったようで、そんなに気にしないでくだいという風に手を広げた。

「名前を聞いてよいかな?」

 簡雍は、少年の名前を聞いた。
 
 これは察したらしく、 

「マウクワク」

 と少年はタイ族の音で答えた。簡雍には、どこまでが姓で、どこからが名前か分からない。

「どんな字を書くの?」

 今度は、蘭が聞いた。

 すると、少年は蘭の手を取り、その掌に字を書いた。同世代の男子が苦手なはずの蘭が、少年の仕草が、あまりに自然だったので、黙って掌を差し出してしまっている。少年は、雲南高原に吹く風のような微笑をたたえたまま、蘭の柔らかな手の上に、褐色の指先をすべらした。

「孟獲」

 と少年は書いた。

「建寧の、孟家の子かね」

 簡雍が言った。孔明の南蛮征伐後に異民族でありながら、蜀漢政府から土豪として認められ、支配機構の中に組み入れられた八つの一族があった。建寧八大姓と言われる、焦・雍・婁・爨・孟・量・毛・李の八家である。孟氏は、この八大姓の一つであった。

 ちなみに、この八大姓の中の李家は、馬超を劉備に帰順させたことで有名な李恢の一族である。彼は、孔明の南蛮征伐時にも、一軍の大将として馬忠と共に大活躍したが、同胞相手の戦にやり過ぎてしまい、戦後しばらくしてから、漢中に移住してしまっている、ということはすでに書いた。孟獲は、その李恢の去ったあとの空き家に寄寓しているらしい。

「勉強をしに来たよ」

 彼は、そう言うと笑ったが、このような異族の大姓の子供を、成都に置くのは、人質の意味もある。その点では、張嶷が、成都に来た時に、連れていた酋長の息子達と同じである。しかし、彼からは、そういった境遇にいるという悲愴感は、あまり感じられなかった。自由気儘に、大都会での生活を楽しんでいるようで、全く屈託というものがない。

「あまり、男の子が泣かないよ」

 孟獲は、まだ泣きじゃくっている張嶷の頭を撫でた。

「だって、僕のせいで、休然が。それに、伯約も文則も、喧嘩に行ってしまったし」

「あなたのせいじゃないよ。悪いのは、殴ってた奴ら。泣かないで」

 孟獲は、励ました。慈しみの心が強い少年らしい。

「そろそろ、私は行くけど、元気だしてね。倒れてる子にもヨロシク」

 立ち去ろうとする孟獲に、張嶷が声を掛けた。

「助けてくれて、ありがとう。ごめんね。君も殴られたみたいで」

 孟獲は、気にするなという風に、首を振った。

「また、会えるかな?」

 張嶷が聞いた。

 孟獲は、瞳を上にあげて、ちょっと考える風だった。

「僕、君達の言葉しゃべれるよ」

 張嶷が、言葉を重ねた。

 孟獲は、驚いたようで目を丸くした。その後、

「プアン」
 と言った。

 自分と張嶷を交互に指差す。プアンは、タイ族の言葉で、友達という意味である。

 張嶷は、それに答えて「プアンクラップ」と言った。友達ですよ、という意思を告げたわけである。

 孟獲は、それを聞くと、また例の魅力的な微笑を、その褐色の顔に浮かべた。自民族の言葉で話せる人間がいるのが、嬉しかったのだろう。

 孟獲は、最後に、「パイレーゥナクラップ」と言うと、立ち去っていった。パイレーゥナクラップ、タイ族の言葉で、また会いましょう、という程の意味である。

 張嶷、孟獲。この二人の少年は、後に雲南高原を舞台に、片方は中華の文化・文明の光彩を背負って、片方は南中の数十の民族の誇りをかけて、大地を割るような、ほとんど神話的な戦いをすることになる。世に伝えられる、孔明の「七縱七禽」の故事の真の主役は、彼等であった。


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花武担 第五章 友というもの(五)

「一体、何があったというんじゃ!?」

屋敷に、葬列の群れのような、悲しみに包まれた一団が着いた時、簡雍は思わず怒鳴り声をあげた。

 張嶷は、鶏冠花の美しい着物を泥まみれにして泣きじゃくっており、顔を赤黒く腫らした柳隠は荷車に載せられている。その荷車を、見知らぬタイ族の少年が引いていた。彼は、簡雍と目を合わせると、まるで自分がしでかしたことのように申し訳なさそうに笑った。

「太学の近くで、たちの悪い連中から乱暴されていたの」

 張嶷の手を引いてやりつつ、蘭が説明した。

 姜維と羅憲も血相を変えて飛び出してくる。二人は、柳隠と張嶷が持ってくるはずの、林檎と蜜柑を今か今かと待ち構えていたのだ。羅憲は、荷車に載せられた柳隠を抱きかかえると、正堂に運び、李婆がひいた布団の上に寝かせた。

 簡雍が、吸飲みから水を飲ませようとする。

しかし、傷に沁みるのか柳隠はすぐ吐き出した。

「隠、この指を見ろ」

 簡雍は、人差し指を立てると、それを柳隠の顔に近づけたり、遠ざけたりした。瞳孔に異常がないかジッと見る。戦場上りであるため、怪我人を手当てするのは慣れていた。

「吐き気はあるか?」

 柳隠は、苦しそうだったが、首を振った。

「どうやら、臓腑と骨まではやられてないようじゃ」

 簡雍は、ひとまず安堵の溜息をついた。念のため、李翁を医者の姚子牙のもとに使いにやった。そして、羊の胃袋で出来た水筒に水を詰めた。氷嚢代わりである。

「誰にやられた?」

 羅憲は、簡雍から水筒を受け取ると、柳隠の顔にあてがい、叫ぶように言った。眉の間が、狭まっている。珍しく怒りを露にしていた。

 柳隠は、黙っている。もし、犯人を言えば、羅憲と姜維の気性だ。きっと復讐に駆け出すだろう。友達に、そんなことはさせたくなかった。

 だんまりを決め込んでいる柳隠に、羅憲が苛立ちだした。

「はやく言えって」

 ついには怒声をあげ、床に拳を叩きつけた。

 すると、それまでだまって様子を見守っていた、姜維が口を開いた。

「休然、僕達と君は友達だ。だから、嘘は言わないでくれ」

低いささやくような声である。

「これから、質問をする。答えたくない質問は、答えないでいい。だが、嘘は言わないでくれ。いいね」

 柳隠は、頷いた。

「やったのは、韓黄か?」

姜維は、ある太学の諸生の名前を言った。胡瓜が服を着て座っているようなひ弱な人間である。柳隠は、首を振った。

「では、張育か?」

また別の生徒の名前を言った。暇さえあれば、背中を丸めて書写ばかりしている顔色の悪い男で、到底こんな悪さをする人間ではない。柳隠は、また首を振る。

 姜維は、この調子で、次々に太学の生徒の名前を言っていった。皆、どちらかと言えば、大人しめで、こんな無法をする人間ではない。柳隠は、首を振り続ける。羅憲は、怪訝そうな顔をして姜維を見た。

「では、広漢の周隠か?」

犯人の一人の名前を姜維が言った。それまで、リズム良く振られていた柳隠の首が止まった。

「杜育」「来去疾」「李晋」

姜維が、犯人の名前を言っていく。柳隠は、うなずかなかったが、首も振らなかった。

 実は、姜維は最初から犯人の目星はついていた。柳隠の優しい気性から、誰か?という質問では絶対に答えないだろうと思い、このような回りくどい質問をしたのだ。羅憲は、姜維の機知に舌を巻いた。

「ありがとう、休然。君は、嘘も言ってないし、告げ口もしていない。僕が勝手に、犯人を、この四人とするね」

 姜維は、柳隠に優しげに言った。

「でも、一体どうしたんだ?君は、今まであいつ等に逆らわなかったじゃないか?どうして、こんな激しい喧嘩を?」

 羅憲が聞いた。これまで、いじめっ子達に何をされても、柳隠は逆らおうとしなかった。聞けば、柳隠は、いじめっ子達の一人に、磚を叩きつけ、噛み付いたらしい。羅憲が、知っている柳隠からは、考えられない行動だった。

「僕を守ってくれたんだ」

 姜維と羅憲が振り向くと、張嶷が、タイ族の少年と蘭に付き添われて、正堂の入り口に立っていた。大きな目から、止め処なく、涙が零れ落ちている。

「何をされそうになった?」

 姜維が、白皙の顔を怒りで蒼白にして聞いた。しかし、張嶷は、いよいよ激しく泣き出すばかりで、詳しいことは何も言わない。小さな人形のような肩が、震えていた。

 埒があかないと姜維と羅憲が、張嶷に詰め寄って、質問を重ねようとした。

「ちょっと、阿嶷は、何も悪いことしてないじゃない。被害者よ!詰問するようなことしないでよ。とにかく嫌なことされそうになったのよ」

 蘭が、張嶷を抱きしめながら、二人を睨みつけた。

「士(おとこ)に、被害者などいないがな」

黙って母屋の奥の上座で、少年達の様子を見ていた簡雍が口を開いた。

「あるのは、力の強弱だけじゃ」

 蘭が、今度は、簡雍を睨みつけた。老師とはいえ、暴言である。許せない。

「それじゃ、弱いものは、踏みつけにされっぱなしじゃない」

「そうじゃよ。だから、優しい人間には、責任がある。何者よりも強くならなくてはならない」

 簡雍は、話を続ける。蘭がハッとしたほど、その表情は、一切の感情移入を許さない厳しさに満ちていた。

「隠は、すべきことをまったき形でやった。力及ばなかったかもしれんが、弱いことは、やるべきことをやらない理由にはならん。わしは、こいつを見直したよ」

 そして、姜維と羅憲を見る。

「わしは、お前達全員を見どころのある若者と思っている。お前達を、先帝の御前にならべたとしても、恥ずかしくないようにするのが、わしの使命じゃ。こういう時、かつての先帝麾下の侠(おのこ)達なら、どうしたか、お前たちならもう分かるはずじゃ。やるべきことをやれ」

 かつての劉備軍は、何よりも侠的紐帯によって結ばれていた。それは、ライバルの曹操軍が、法規や機構、名士層の利害関係で結ばれていたのと対照的だった。

 今、友達が、辱められ、傷つけられた。その恥を雪ぎ、仇を討たなくてはならない。侠(おのこ)の証を打ち立てるために。

 羅憲は、柳隠の側まで歩くと、彼の手を握った。

「自分のことじゃないから。伯岐がヒドイ目にあいそうになったから、君は怒ったんだね」

 羅憲の胸を、この小さな友人に対する清らかな感動が満たしていた。そして、同時に卑怯者達に対する怒りが、止め処なくこみあげてくる。

「必ず、仇は討ってやるからな」

 羅憲が、そう言うと、音もなく柳隠の頬を涙が伝った。

 姜維は、もう厩から自分の馬を引き出している。

「あいつら、太学に入ったって言ってたな」

 姜維は、愛馬の雪山にまたがった。袴(ズボン)に、スラリとした足を包み、帯鉤(バックル)は獅子の金飾り。上着は、腰までの緋の襟飾りの素衣(白い衣装)。北冥の氷山を思わせる美貌は、怒りでいよいよ研ぎ澄まされ、その漆黒の瞳の奥で、触れるもの全てを焼き尽くす青い炎が、静かに、音もなく燃え上がっていた。

 羅憲も、自分の馬を引き出し、その大柄な身体を姜維の隣に並べた。

 こちらは、藍色のゆったりした裳(はかま)を穿き、上着は、膝まである橙の菱紋があしらわれた緑の羽織。いつもは、美味しそうな笑みを浮かべる陽気な顔が、今は怒りで真っ赤になっている。

 二人は、突撃前の騎都尉(騎兵隊長)のような緊張感を漂わせながら、門に向っていく。

 すると、どうしたことか、姜維の手元から鞭が落ちた。普段なら、こういうヘマはしない少年だが、今日は余程怒っているのだろう。手元が狂った。

 姜維の鞭は、珊瑚の掴み手に、鯨の髭の芯という高価なものだ。

 羅憲が、拾うよう姜維に注意した。姜維の馬も驕って進もうとしない。だが、姜維は、何百銭もするであろうその落ちた鞭には一瞥もくれなかった。

 彼の戦いの前の逸る気持ちと、高貴な誇り高さが、地に落ちたものを拾うなどという卑しい真似を許さなかった。

 その代わり、鞍から伸び上がって、側にあった楊柳の枝をポキリと折った。そして、ハァッと一声、凄まじい掛け声をあげると、その柳の枝を鞭に、稲妻のような速さで、太学に続く道に飛び出した。羅憲も、弾丸のような勢いで、それに続く。

 蘭が、姜維の鞭を拾い上げ、簡雍邸の門を出て、二人の背中を探したときには、すでに若き騎士は、市橋も超え、流星の尾のような砂煙をあげて、小さな二つの点になっていた。

→ 花武担 第五章 友というもの(六)

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プロフィール

黒澤はゆま

Author:黒澤はゆま
歴史小説家。はゆまは古語で「早馬」「報せ」の意味。小説のことや歴史のこと、また日々の徒然のことを、「報せ」ていこうと思います。三国志を舞台にした小説「花武担」連載中。

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